よろめくような足どりで市村が帰ったあと、拓見と昭義はいっしょに拓見の部屋へ行った。
「ごめんなさい」
拓見はもう一度謝った。いましがたの顛末に関してだけではなく、もっと多くの意味をこめた謝罪だった。
二人は並んでベッドに腰かけた。昭義の腕が拓見の肩にまわり、引きよせた。いつかの晩――拓見が古いアルバムを見つけた晩のように。
「結局、母さんとはうまくいってたの?」
拓見がきくと、昭義は答えた。
「うん、まあまあね。母さんはたぶん、ずっと市村のことが好きだったんだろうけど、父さんは母さんのことが好きだったからね……それに、拓見のことも」
昭義は拓見を抱く腕に力をこめた。それからまた口を開いた。
「おまえは、父さんが、他人の子を育てるようなお人好しだと思ったのかい?」
一度はたしかにそう思った。そしてもしそうなら、この十五年は父にとってなんだったのだろうと。父は苦しくなかっただろうか、拓見を憎まなかっただろうか、不幸ではなかっただろうか……。
だが、自分は父の実子だったのだ。そのことを拓見は、自分のためよりも父のためにうれしく思った。そうでなければ、父があまりにも惨めすぎる。
「でも」
拓見は言った。
「実の息子をゴーカンするより、考えられることだったもの」
昭義の目に暗い笑みが浮かんだ。
「父親失格だな」
彼は言って、拓見の体を軽く揺さぶった。
「俺は、父親としての自分に自信がなかったんだ」
拓見は肩に昭義の指が食いこむのを感じ、彼が硬い声で言うのを聞いた。
「……すまなかった」
「謝ったりしないでよ」
拓見は昭義に寄りそい、その肩に頬を押しつけた。
「こういうつきあいも、悪くないと思ってるんだから」
長かった夜が明けた。