BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第1章/人に造られし者
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「ああ、失礼。グローモワ教授の研究室はどこかね?」
 呼びとめられてライナーは振り返った。
 黒っぽい礼服を着た恰幅のいい男が、ステッキを振り回しながらこちらへ向かってくるところだった。
 見たことのない顔だ。学会の出席者だろうか。
「グローモワ教授でしたら、そこの実験室にいます」
 男をやり過ごしてしばらく行くと、今度は二人連れの老女につかまった。
「そこの学生さん。グローモワ教授の部屋へはどう行ったらいいの?」
 次は報道関係者と思われる若い男だ。
「ねえねえ、君、グローモワ研究室の学生さん? ちょっと話を聞きたいんだけど……」
 ライナーは丁重に断わって足を速めた。
 グローモワ教授はよほど人気があるらしい。今の遺伝学の基礎を築いた重鎮ともなれば無理のない話だが、それにしてもにぎやかだ。今日一日、グローモワ教授は休む暇もないだろう。
 見知らぬ顔に次々行き当たるにつれ、ライナーの気分もしだいに高揚してきた。
 この中に、組織の関係者がいるかもしれない。すぐにも自分に声をかけてくるかもしれない。
 久しぶりに自分の居場所が得られそうな期待に、ライナーは浮き足立ち、そわそわとあたりに視線を走らせながら泳ぐように寄宿舎までの道のりを歩いた。
 途中、ライナーに声をかけてくる者はもういなかった。だが寄宿舎のポストに、懐かしい金色のピアスが入っているのを見つけた。
「もしもし! こちらMMO……」
 勢い込んで呼びかけたライナーに、GODはいつもと変わらない冷静な声を返した。
『応援を向かわせた。そちらからの接触を待ち、その者の指示に従って行動せよ』
 尻尾があったらちぎれるほど振り回したい気分だった。GODを失って、自分がどれほど心細かったか思い知らされた。もう自分が犬でもかまわなかった。ようやく確かなよりどころが見つかったのだ。
 それからの数時間、ライナーはピアスを握り締め、連絡が入るのを今か今かと待ち続けた。だがいつまで待っても、ピアスは口をきかなかった。
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まろやか連載小説 1.41