BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第3章/運命の手のひら
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     * * *


 スリとその追手が飛び出してきたとき、ライナーは不意に横手から伸びてきた腕につかまれ、手に何かを握らされた。
 開いた手のひらを一瞥して息を呑む。
 金色のピアス。GODと自分をつなぐ通信機だ。
 はっと顔を上げると、フードで顔を隠した相手は無言でうなずき、彼の手を強く引いた。
 ライナーは反射的に相手に従い、目の前の扉に体を滑り込ませた。中は居酒屋で、一人しかいない客は酔いつぶれてカウンターに突っ伏している。フードの人物は主人に合図すると、店を駆け抜け、裏口からライナーを連れ出した。それからまた別の店へ。
 そうやって何軒か通り抜けてから、最後に入った娼館で二階に上がった。
 個室に入り、扉に鍵をかけると、相手はライナーに向き直ってフードを脱いだ。
「久しぶりだね」
「ショウ!」
 現れた若い女の顔を見て、ライナーは声を上げた。
 ショウ・リーは、ライナーと同時期に生まれた、同じく最新型のM・M・Oだった。組織の訓練所でたびたび顔を合わせ、チームを組んで仕事をしたこともある。彼女の専門は追跡と捕獲だった。
「俺を連れ戻しにきたのか」
「うん、まあ、そんなようなものだ」
 ショウの答えはどういうわけか歯切れが悪かった。彼女は切れ上がった青い目でライナーの顔をじっと見ると、ためらうように口元を動かし、視線をそらした。
「あんたは、組織の仕事をどう思う?」
「え?」
 唐突な質問に、ライナーはどう反応していいかわからなかった。
「一人の人間を調査し、拉致し、あるいは殺すために、ばかにならない費用と時間をかけて、わざわざ現地へあたしたちを送り込む。ほとんどの星と瞬時に交信できるこの時代、考えてみれば非効率的な話だ。そんなもの、現地で代理人を調達すれば事足りる。しかもあたしたちの教育には、これまた相当の費用と時間がかかっている――はたして、あたしたちのこの仕事は、それに見合う価値のあるものなのか?」
 ショウは寝台に体を投げ出し、誘うように微笑みかけた。
「今回のあたしの任務はこうだ。これこれの船の寄港に合わせ、しかじかの星へ行き、ライナー・フォルツを逮捕したうえで、彼と寝ろ」
 面食らっているライナーに向かって、ショウはさらりと言った。
「寝るかい?」
 だが次の瞬間、憤然として飛び起きた。
「ばかばかしい、やってられるかよ!」
 ショウは一人で怒りながら、両手で金色の髪をかきむしって部屋の中を歩きはじめた。
「教えてやる。あんたは故意に泳がされていた。組織はずっとあんたのことを追跡し、すべての言動を記録していたんだ。あたしたちのボディは、特定の刺激に反応して特定の信号を返すようになっている。つまり、体全体が発信機であるのと同じだ。映像や音声を転送することもできる。向こうには最初から、通信機なんてものは必要じゃなかった」
 ライナーはのろのろと首を動かし、手の上の小さなピアスを見つめた。ショウは早口で続けた。
「今こうしてあたしたちが会い、話していることも全部筒抜けだ。あとであたしは罰を受けるかもしれない。いや、そんなことよりもっと怖いのは、あたしのこの行動があらかじめ予測されて――彼らの計算に入っていたかもしれないってことだ」
 ショウはライナーの肩を両手でつかみ、睨むようにその目を見た。
「デイル・ホークスの本業を知っているか? 彼女は心理学者だ。それも、生体セクサロイド専門の。あんたは――ひょっとしたらあたしたち全員、彼女の研究対象、実験動物でしかないんだよ」
「君はどうして、そんなことを知ってるんだ?」
 ライナーはそれだけ言うのがやっとだった。
「あたしは、あんたと違って研究所育ちの研究所住まいだからね。組織の情報を引き出すことぐらいわけないさ。……もっとも、それもまたそう仕向けられた結果なのかもしれないけど」
 ショウは皮肉な笑みを浮かべた。と、それは頼りなく崩れ、ショウは泣き笑いのような顔をしてライナーにすがりついた。
「あたしは怖い! もう、どうしていいのかわからないんだ……!」
 それはライナーも同じだった。
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