BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第4章/過去の亡霊
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 超光速航行をくりかえし、メリア共和国の領域まで来ると、すでに迎えの輸送船が待ちかまえていた。
 広い倉庫に格納され、小型艇を降りる。
「ようこそ、ミハイル・グローモワ博士。ごくろうだった、ウォン・シェイ少尉」
 軍人と思われる数人の男たちが二人を出迎えた。
「グローモワ博士、我々はあなたを客人として歓迎します。地球に到着するまで、ゆっくりおくつろぎください」
 一人がミハイルを案内するために進み出てくると、ウォンが彼に向かって言った。
「大佐、私も同行したいのですが」
「どうした?」
「M・M・Oとして仕える主人を代えました。彼が私の新しい主人です」
 男は一瞬沈黙したが、すぐにうなずいた。
「いいだろう、いっしょに来たまえ。報告はあとで聞く」
 案内されたのは、広々とした休憩室だった。壁の二面に沿ってL字型の長椅子が置かれ、もう一面には作りつけのテーブルがあって軽食と飲み物が用意されている。ミハイルが長椅子に身を沈めると、ウォンはテーブルに歩みよりながら言った。
「何か飲むか?」
 上官の前では丁寧語を使っておきながら、ミハイルにはぞんざいな口のききかたをする。どうやらM・M・Oにとっての主人とは、へりくだる対象ではないらしい。
「軽いものなら」
 ミハイルが言うと、ウォンは二つのグラスに薄水色の液体を注いで運んできた。一つをミハイルに渡し、もう一つは自分で持ったまま隣に腰を下ろす。二人はちらりと視線を交わし、黙ってグラスに口をつけた。
 ここからが正念場だった。筋書きでは、ミハイルが、護送艦の隣の房に監禁されたウォンを連れ出し、むりやり協力させて脱出してきたことになっている。つじつまを合わせるため、これからは一言一言に細心の注意を払わなくてはならない。かといって、不自然なほど会話が少なくてもいけない。
「今さらだが、地球へ行ってどうするつもりだ?」
 ウォンの質問に、ミハイルはほとんどわからないほどの笑みを浮かべた。
「改めてきかれたら、自分でもどうしたいのかよくわからないな。前に話したM・M・O――ライナー・フォルツに会って、関係を修復できたらとは思う。もう一つは、自分自身の問題……評議会がなぜ私を欲しがったのか、私をどうしたいのかを知って、それに決着をつけたい」
「ライナーというM・M・Oのことを、あなたは愛しているのか?」
「愛というのかどうか……彼のことは好きで、できれば嫌われたくないが。M・M・Oも、誰かを愛することがあるのか?」
「もちろん」
 ウォンは憮然とした表情を浮かべた。
「恋も愛も、H一〇〇八五〇七の人格データには含まれていたから。私たちは友情を知っているし、恋もする。自分の主人には無償の愛を捧げる」
 真顔で言われてミハイルはたじろいだ。その腕に手をかけて、ウォンは囁くように言った。
「到着までまだ時間がある。よければ抱きあわないか?」
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