その夜ミハイルは、ふと眠りから覚め、ウォンが憔悴しきった顔で自分を見おろしているのに気づいた。
「ウォン?」
「抱いてほしい」
ウォンは単刀直入に言った。
「不安でたまらない。抱いて、つなぎとめてほしい」
ウォンは、いつだったかライナーの顔に浮かんでいたのと同じ、なんとも頼りない表情を浮かべていた。
「たった一人、知らない世界に取り残されたような気分だ。怖くて、どうしていいのかわからない」
突然、ミハイルは強烈な既視感に襲われた。
ライナーが言っていたのと、そっくりそのまま同じ言葉。
――あんたが彼を主人たちから引き離したんだ……取るべき方法は二つに一つ――
セクサロイド医のヨシムネに言われた言葉が、フラッシュバックのようにこだまする。
「悪かった」
ミハイルは、ウォンとライナーの二人に対して謝罪の言葉をつぶやき、ウォンの腕をつかんで引き寄せた。
自分のライナーへの対応が決定的に間違っていたことが、ようやく心から理解できた。M・M・Oたちは、命令に従順であるよう例外なくプログラミングされている。主人を裏切って別の主人に仕えることは、彼らの存在理由そのものを揺るがす一大事なのだ。裏切りを正当化するには、それに優先する命令を与えてやるしかない。新しい主人が、前の主人よりも強大だと信じさせてやらなければならないのだ。
たとえ彼らの人格が人間に由来するものだとしても、それは歴然としてそこに横たわるルールだった。むしろ、人間に近い精神構造をもつゆえに、ささいなきっかけで安定を欠いてしまうのかもしれない。尋問の最中に判明した二人の因縁は、関係ないという言葉とはうらはらに、ウォンにかなりのダメージを与えていたようだった。
「ウォン、おまえは私のものだ」
ミハイルはウォンを組みしき、まっすぐその目を見つめた。
「わかるだろう? どんなにあがいても、私の力には絶対かなわない。おまえは私に従うしかないんだ。その代わり、私は必ずおまえを守ってやる」
ウォンの緑色の瞳が揺らめいた。続いて、ミハイルの言葉が真実かどうか確認しようとでもいうように、全身の力をふりしぼって暴れだした。ミハイルはそれを難なく抑え、のけぞった彼の喉に歯を立てた。
しなやかな体がびくりと震える。
着ているものをむしりとり、故意に乱暴なやりかたで素肌に触れた。胸から腹部にかけて手のひらで撫でまわし、小さな乳首をつまんでひねりあげる。殴りかかってくる両手をひとまとめにつかんで頭上にぬいつけ、もう一方の乳首を口に含んで強く吸う。
「ウゥ……」
ウォンは歯を食いしばって呻いた。
ミハイルはいったん口を離し、乳首と腋の間の筋肉に噛みついた。ようやく傷が癒えたばかりの肌に、鮮やかな鬱血が浮かびあがる。
「……ハァ……」
だが、ウォンの口から漏れたのは、とろけそうな甘い吐息だった。ウォンは身をよじり、すがるような目でミハイルを見つめてきた。
「もっと……もっと強く……」
乞われるまま、さらにいくつか痕をつける。下腹部に手を伸ばすと、そこはすでにはじけるほど膨れあがり、熱い蜜をこぼしていた。指を絡め、加減しながら強く握りこむ。
「ァウゥ!」
明らかな嬌声。根元を握っておいて、親指の腹で先端をこすった。あふれる蜜を指に絡ませ、くびれから裏側の筋へとなぞり、握った手を上下に動かしてしごきたてる。すぐにウォンは果てた。
まきちらされた液体を肛口に塗りこめ、ろくにほぐさないまま自分の高ぶりを押しあてた。見上げるウォンの目が、怯えと期待に濡れる。ためらいながら腰を進めた。抵抗を無視し、傷つける覚悟で強行する。
ウォンは、こんどは声を漏らさなかった。貫かれたとたん、抵抗のポーズを捨て、苦痛をまぎらわせようというようにミハイルにしがみついてきた。
熱い粘膜に強く締めつけられて、ミハイルは否応なくその気にさせられた。
唇を合わせ、息をつく暇も与えず舌を絡める。骨がきしむほど強く抱きしめ、強引に足を割りひらく。ウォンの快感よりも自分の快感を優先し、奥深く突きたてたまま激しくかきまわす。
わざと手荒く扱っているつもりが、いつのまにか演技を忘れていた。
「ク……ッ、グゥ……、ウ!」
こらえきれずに漏らされるウォンの呻き声が、甘く耳を打つ。体じゅうの血が煮えたぎり、目の前が赤く染まる。
ミハイルは生まれて初めて欲望に我を忘れた。衝動と恍惚のはて、ようやく満たされたときには、ウォンは意識を失っていた。
セクサロイドのボディが、人間よりはるかに頑丈にできていたのは幸いだった。ウォンの全身には痣や擦過傷ができ、局部からは血が流れていたが、それでも命にかかわるような状態ではなかった。
何より、ウォンの顔には幸福そうな笑みが浮かんでいる。
それを見てミハイルは安堵の吐息を漏らした。
傷だらけの体を抱き寄せ、睡魔に勝てずそのまま眠りに落ちた。