BL◆MAN-MADE ORGANISM
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第5章/いくつもの未来
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「あなたの専門は、遺伝子工学だとお聞きしました」
 カート・ボイドがにこやかに言った。
「セルゲイ・グローモワ博士の名前で発表された論文の中に、実際にはあなたが研究されたものが多数含まれているとか。もしよろしければ、そのあなたの知識を、ここで我々のために役立てていただけるとうれしいのですが」
 そう言いながら、カートがミハイル・グローモワを案内したのは、広い清潔な研究室だった。
 中では二人の男と一人の女が立ち働いていた。強化人間の晩餐会で見かけた顔だ。
「主任のハリー・ディック博士に、クリフ・カー博士、フランソワ・ハミルトン博士です。ここでは、我々強化人間の体質改善について、遺伝学的見地から総合的な研究が進められています」
「ようこそ、グローモワ博士」
 最も年長らしいハリーが、満面に笑みをたたえて手をさしだしてきた。
「あなたのような優秀な科学者に協力していただければ、非常に心強い。力を貸していただけますか?」
 ミハイルはその手を握り返し、物珍しげに室内を見回した。アータル王立大学の研究室よりも充実した最新の設備群。久しく忘れていた研究者としての好奇心が、むくむくと頭をもたげた。
「それは、ええ……私にできることなら」
「ありがたい!」
 ハリーは小躍りせんばかりに喜び、そのままミハイルの手を引いて奥の方へ連れていった。
「ここにある機器類は自由に使ってくださってかまいません。私たちの研究の目下の主題は、遺伝子操作によって、健康で生殖可能な強化人間を誕生させようというものです。これにはもちろん、遺伝子の解析データからオリジナルの生命体を発生させるという、あなたのこれまでの研究も大いに役立ってくれるに違いありません」
 早口で語りながら、ハリーは端末を操作して、モニターに膨大な量のデータを表示させた。
「ここには、これまで私たちが接触したすべての強化人間の遺伝子データが集められています。もちろん私自身のものも、それから、ここにいるクリフやフランソワやカートのものも、すべて。これは私たち強化人間の、何ものにも替えがたい財産です。強化人間の秘密のすべてがここにあるといっても過言ではない。そしてここに、あなたのデータも加えられるのです。データというかたちで、あなたは私たちと混じりあい、生きた証を後世に残すことができる――」
 心を揺さぶられる話だった。ミハイルは、今しがたまで胸を締めつけていた孤独感が薄れ、代わりに、同胞の絆の実感ともいうべきものが芽生えようとしているのを感じた。
 同胞。それはなんと甘美な響きを持つ言葉だろう。
 ミハイルは、地球に来てはじめて、心の底からの笑みを浮かべることができた。
「もちろん、喜んで協力しますよ……いえ、ぜひ協力させてください」
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まろやか連載小説 1.41