BL◆MAN-MADE ORGANISM
第5章/いくつもの未来 − 21 − * * * ウォンが援護に来てくれてから、二人の道程はずいぶん楽になった。 あいかわらずM・M・O兵士たちの妨害はあったものの、出くわす頻度は少なくなり、二人が行ったときにはすでに戦闘不能に陥っていることもあった。 ウォンの処置は徹底的だった。負傷兵たちはすべて、刃物で手足の腱を切断されていた。銃で撃ち抜くのに比べ、ほとんど完璧に戦闘能力を奪うことができる。 倒した人数も生半可ではない。 ライナーもミハイルも素直に舌を巻いた。 「彼が味方でよかったな」 「まったくだ」 だが、しばらく進むうちに、二人はしだいに眉をひそめはじめた。 負傷兵の数が異常に多い。なかには三、四十人まとめて倒れているところもある。よく見ると、刃物でなく銃で手足の動きを封じられた兵士たちも交じっていた。 「妙だな」 ライナーは警戒するように目を細めた。 「これがすべてウォンのやったことだとすると、ミハイル、彼はあんたに匹敵するかそれ以上の戦闘能力を持っていることになる。手口も彼らしくない」 「誰かまだ、私たちの知らない味方がいるということか」 「味方とはかぎらないけどな」 二人は顔を見合わせ、不安げにあたりを見回した。 息をひそめ、これまで以上に慎重に歩を進める。 ふと、遠くの方から銃声が聞こえてきた。 何も言わず、二人は同時に駆けだしていた。一瞬のうちにミハイルがライナーを引き離し、曲がり角の壁にはりついてから、銃を構えて首だけ出す。 ウォンが倒れていた。周囲に何人かのM・M・O兵士が倒れ、まだ無傷の一隊がウォンに近づこうとしていた。 「とまれ!」 叫びながら飛び出し、先頭にいた兵士に狙いを定める。 「待て! 撃つな!」 制止の声を上げたのはウォンだった。 ミハイルはぎりぎりのところで指をとめ、銃を構えたまま相手の顔を見た。 ショウ・リーだった。 「ショウ、君も――」 「誤解だ、ミハイル」 ショウは両手を上げて戦意のないことを示した。 「あたしたちは加勢にきたんだ」 「危ないところを、彼女に助けられた」 ウォンが補足する。 ミハイルは事態が呑みこめず、まだ警戒を解かなかった。ライナーが追いついてきて脇についた。 「ミハイル、何を――ショウ?」 「やあ、ライナー。あたしたちは、あんたたちを手伝うために来たんだ。敵じゃない」 「信じられないな」 ライナーは用心深く言った。 「俺たちを手伝いに来たって? 命令違反をして? いくら君でも、主人の命令を無視できるとは思えない」 「だからその、主人の命令で来たのさ」 ショウは満足げな笑みを浮かべた。 「フォルツ少佐の命令だ。……知ってたかい? 研究所にいる特殊班のM・M・Oは、全員彼を主人としていたんだよ」 ライナーはまだ信用しなかった。 「だけど、こんなことをすれば、少佐もただではすまない。彼がそんな危ない橋を渡るとは考えられない」 「今や状況は変わったんだ。ここには外の騒ぎは届かないから知らないと思うけど、つい先ほど、ディーナ・シー連邦の艦隊が国境まで押しかけてきて、緊急に政府との交渉を求めてきた。外じゃてんやわんやの大騒ぎさ」 ライナーとミハイルは顔を見合わせた。 ショウの背後では、ウォンが負傷した左腕の手当てを受けている。 ライナーは銃を下ろし、ミハイルの肩を叩いてうなずいた。 |