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気を使えば使われた

一人のばあさまが、片手で手すり、もう片方の手でキャリーカートを持ちながら、階段をゆっくりと降りてきた。
親切な私としては、もちろん手伝ってあげなくてはいけない。
私は、階段を駆け上がった。

「荷物を、階段の下まで持ってあげましょうか?」
「いえ、いいですよ」
「遠慮なさらずに。どうぞどうぞ」
「そうですか。じゃあ、お願いします」
「はい。持ちましたから、手を離していいですよ……ぐっ」

ばあさまが手を離した時、キャリーカートのあまりの重さに、一瞬動けなくなった。
私は、本が入った段ボール箱なら、15キロぐらいなら持てるのだが。
しまった。
ばあさまは、私より怪力なのだ。
見た目は、弱そうなのに。
さっきの言葉は『いえ、(あなたには無理だから)いいですよ』という意味だったのかもしれない。
でも、ここで負けるわけにはいかない。
頑張れ、私。
心配そうなばあさまに見守られながら、手すりにぶら下りながら、なんとかキャリーカートを持って無事に降りた。
「ありがとう」とは言われたが、よけいな気を使わせたかもしれない。

自転車は、基本的には車道を通らなくてはいけない。
しかし、私の運動神経は切れているので、自転車で車道を通るのは不可能だ。
これからも、歩道しか通るつもりはない。

私は、歩道に歩行者がいない時には自転車に乗り、歩行者との距離が7メートルぐらいで自転車を降りて押して歩くことにしている。
歩行者が妊婦や幼児や杖の利用者だったら、もっと早めに自転車を降りて「私は無害です~」とアピールしながら、歩いて近寄っていく。
細い道で歩行者の背後から近づいた場合、足の速い人だと追い越すことができずに、延々と一緒に歩くことになるのが、ちょっと辛い。

自転車に乗っていると、20メートルほど向こうに、杖を持ったじいさまを発見。
私のルールで、自転車から降りた。
じいさまは、降りた私を見て車道を走って横断して、反対側の歩道を歩き始めた。
気を使ったつもりなのに、相手に気と体力を使わせてしまった気がする。