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しっかり見た

爪に針を刺したり、爪を剥したりする小説を読むと、小学生の同級生を思い出す。
隣の席の男の子の、手の爪が一枚、真っ黒になっていた。

私「どうしたの?」
彼「ドアで挟んだ。見たいか?ホラ」
私「いやああぁあー」

その子はいじめっ子ではなく、顔も可愛らしく仲良しだったが、ケガ自慢をしたかったのだろう。
怖かったが気持ち悪くはなかったので、悲鳴をあげながら何度もしっかり見て、今は痛みが無いと分かると、見せられても平気な態度を取るようになってしまった。

怖がらないのが不満だったのか、今度は黒い爪を少しずつ歯で噛みちぎって「ホラ」と見せてきた。
また悲鳴をあげながらも、しっかり見た。
黒い爪の下は、しっかり皮膚ができていた。
全部噛みちぎっても、血は出てこなかった。
ほんの少しだけ新しい爪が生えてこようとしていた。

痛みは無いだろうと思ったので、怖がらなくなった。
ここで心配した。
爪の下の皮膚ができているようなので、新しい爪は指から離れて伸びてしまうのではないか。

新しい爪は、ゆっくりゆっくり伸びた。
指から離れず、ちゃんとピンク色の爪になった。
とても感動した。

「爪が元にもどって、良かったね」というと「うーん」と彼は少し嬉しくなさそうに返事した。